秋田家庭裁判所大館支部 事件番号不詳 判決
被告人 庄司ナヨ
主文
被告人を罰金二万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
公訴事実中「被告人は昭和三三年四月一二日頃被告人方階下帳場において、佐々木八重がAを相手として売春し、同月下旬頃被告人方二階四畳半において、芳賀ミヱがBを相手として売春し、同月下旬頃被告人方階下帳場において、芳賀ミヱがAを相手として売春し、同月下旬頃被告人方二階四畳半において、芳賀ミヱがBを相手として売春した際、いずれもその情を知りながら被告人方の部屋を貸与し以て売春を行う場所を提供した」点は当裁判所の管轄に属しない。
理由
(犯罪事実)
被告人は秋田県北秋田郡森吉町阿仁前田字下川端一六七番地の二において、食堂「丸富」を経営している者であるが
一、昭和三二年七月二二日頃から同三三年四月一五日頃までの間前記「丸富」食堂において、二五回位に亘り従業婦として雇入れたC子(昭和一六年一二月一九日生)をして、同女が満一八歳に満たない児童であることを知悉しながら、A外多数の遊客に売淫させ以て児童をして淫行をさせる行為をし
二、同年七月二二日頃から同年一二月頃までの間、前記「丸富食堂」において、九回位に亘り従業婦として雇入れたD子(昭和一五年二月一日生)をして、同女が満一八歳に満たない児童であることを知悉しながら、E外多数の遊客に売淫させ以て児童をして淫行をさせる行為をしたものである。
(証拠の標目)
1、被告人の当公判廷における供述(判示全事実につき)
2、被告人の検察官に対する昭和三三年六月一七日附及び同月二八日附供述調書(同全事実につき)
3、被告人の司法警察員に対する昭和三三年六月七日附供述調書一通、同月九日附供述調書二通、同月一〇日附供述調書二通、同月一一日附供述調書一通、同月一二日附供述調書二通(同全事実につき)
4、証人C子の当公判廷における供述(判示一の事実につき)
5、C子の検察官に対する供述調書(同一の事実につき)
6、C子の司法警察員に対する昭和三三年五月七日附供述調書一通、同月一二日附供述調書一通、同月二九日附供述調書二通、同年六月一〇日附供述調書二通、同月一一日附供述調書一通(同一の事実につき)
7、Aの検察官に対する供述調書(同一の事実につき)
8、Aの司法警察員に対する供述調書(同一の事実につき)
9、大川仁市の司法巡査に対する供述調書(同一の事実につき)
10、柴田政男の検察官に対する供述調書(同一の事実につき)
11、柴田政男の司法警察員に対する供述調書(同一の事実につき)
12、証人D子の当公判廷における供述(同二の事実につき)
13、D子の検察官に対する供述調書(同二の事実につき)
14、D子の司法警察員に対する昭和三三年六月二日附供述調書一通、同月一〇日附供述調書二通(同二の事実につき)
15、Eの司法巡査に対する供述調書(同二の事実につき)
16、柴田栄蔵の司法警察員に対する供述調書(同二の事実につき)
17、奥山与一郎の司法巡査に対する昭和三三年六月七日附供述調書(同二の事実につき)
18、藤本勇一郎の司法警察員に対する供述調書(同二の事実につき)
(法令の適用)
被告人の判示一及び二の各所為は、それぞれ包括的に児童福祉法六〇条一項、三四条一項六号に該当するから所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項に従い法定の加重をなした金額の範囲内で被告人を罰金二万円に処し、右罰金を完納することのできない場合は、同法一八条一項を適用して、金二百円を一日に換算した期間労役場に留置することとし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文によりその全部を被告人に負担させることとする。
なお、公訴事実中「被告人は昭和三三年四月一二日頃被告人方階下帳場において、佐々木八重がAを相手として売春し、同月下旬頃被告人方二階四畳半において、芳賀ミヱがBを相手として売春し、同月下旬頃被告人方階下帳場において、芳賀ミヱがAを相手として売春し、同月下旬頃被告人方二階四畳半において、芳賀ミヱがBを相手として売春した際いずれもその情を知りながら被告人方の部屋を貸与し以て売春を行う場所を提供した」点は、起訴状の記載によると、被告人に対して同起訴状に記載する右のような売春防止法一一条違反の事実と前記のとおり認定した児童福祉法六〇条違反の事実とが一罪であるとして、当裁判所に対してその審理を求めることがうかがわれる。
案ずるに、裁判所法三一条の三によると、家庭裁判所は少年法三七条一項に掲げる罪に係る訴訟の第一審の裁判について、裁判権を有しているのであるが、少年法三七条によると、成人が児童福祉法六〇条の罪を犯し又はその児童福祉法六〇条の罪とその他の罪が刑法五四条一項に規定する関係(いわゆる想像的競合又は牽連犯)にある事件については、児童福祉法六〇条の罪の刑をもつて処断するときに限り、家庭裁判所に公訴を提起することになつている。
しかし、売春防止法一一条が情を知つて売春を行う場所を提供した者を処罰する理由は、風儀及び衛生を確保するため売淫行為の絶滅を期するとともに、婦人の人権を擁護する目的を有することにあるのであるから、本条違反罪の法益は各婦女であつて、本件売春防止法違反被告事件のように佐々木八重及び芳賀ミヱが売春する情を知りながら、被告人方の部屋を同女等に貸与した被告人の所為につき、かかる犯罪は各婦女毎に成立するものと解するのが相当であり、児童福祉法六〇条一項が児童に淫行をさせる行為をなすことを処罰する理由は、児童が人として尊ばれ、社会の一員として重んぜられ、よい環境のなかで心身ともに健全に育成されることを期し、虐待、酷使、放任などの不当な取扱から、まもられることを期し、児童の人権を擁護する目的を有することにあるのであるから、本条違反の法益も亦各児童であつて、本件児童福祉法違反被告事件のように、被告人が一八歳に満たないC子及びD子に淫行をさせる行為をした場合も、前記認定のとおりその犯罪は各児童毎に成立するものと解するのが相当であるばかりでなく、本件売春防止法違反被告事件と児童福祉法違反被告事件とは、包括的に一罪の関係にあるのではなく、刑法五四条一項に規定するいわゆる想像的競合又は牽連犯の関係にあるのでもなくて、同法四五条前段の併合罪の関係にあるのである。して見ると、本件売春防止法違反被告事件について、事物管轄は当裁判所に属しないことが明らかで、刑事訴訟法三二九条本文により管轄違の云渡をする場合に該当するものであるといわなければならない。
よつて主文のとおり判決する。